巧みな動作を習得するためには、本人の意図に関わらず、運動を特定のパターンに引き込まもうとする神経系、筋骨格系、力学系の諸要因の克服を必要とするものが少なくない。そこで、この諸要因を克服して新しい動きを効率的に習得するためには、どのような学習ストラテジーを用いると有効なのかを検討することを本研究の目的とした。実験課題としては、左右上肢の内転・外転動作による周期的運動の位相を1/4周期ずらす両手協応課題を用いた。本研究は、手引き指導、観察学習、先行オーガナイザの3つのストラテジーを比較した実験1と、手引き指導をより詳細に検討した実験2と、観察学習をより詳細に検討した実験3と、観察学習におけるモデルの技能レベルと提示スケジュールの影響について検討した実験4の4つの実験からなる。その結果、2つの示唆が得られた。第1は、1)学習に先立つ認知的な情報の提供(先行オーガナイザー)と2)初心者が熟練に至るまでの全学習過程の観察(学習モデルの集中的観察)といった認知的学習ストラテジーが効率的な学習をもたらすことであるが明らかになった点である。これらの学習方法によって、身体練習の学習期間を短縮することが可能となる。これは、特に高齢者が退職後再就職のために新たな運動技能を習得したりリハビリテーションにおける運動機能の改善などにおいて、運動学習に費やされる時間と経費の大幅な節約をもたらすことができると思われる。第2の示唆は、学習者が意図的には制御しにくく、反射など末梢の神経系・筋骨格系あるいは力学系の諸要因によって大きく影響を受ける、両手協応動作の学習においては、身体練習にのみ専念するよりも、むしろ、あるいはそれ故に、学習者の強い意図や注意を促す認知的特性の強い学習ストラテジーを用いることがきわめて重要な学習方法となることが示唆された。
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