ヒトの高次神経系機能と深く関わる「イメージ再生機能」、特に「運動イメージ」に関する研究は、視覚的動物である我々人間においては、日常生活における行動(随意運動)の遂行において極めて重要な役割を担っているにもかかわらず、その神経生理学的解析は長年の努力にもかかわらず、未だ不明な点が多く残されている。その主たる原因は、対象がヒトであることから、機能解析に用いられる手法に制約を受けることにある。しかし、随意運動の遂行に重要な役割を担っている「運動野」の神経活動を筋電図として他動的に記録できる手法が開発されて以来(磁気刺激法:1985年)、記録された筋電図(MEP)の変化を指標にして、抽象的な(心的な)精神機能である「運動イメージ」の神経生理学的解析が可能となった。本研究は、その手法をいち早く取り入れ、システマテックに「運動イメージ」の神経生理学的機序を明らかにした。具体的には、1)同じ筋であっても、その時発揮される機能の違いに相応して、運動野の興奮性に明らかな違いが生じていること、2)それは、右利き・左利きという大脳半球の機能差に相応して異なっていること、3)運動イメージの再生には、脊髄レベルの関与は無いこと、4)運動のトレーニングの多寡によって、運動イメージ再生機能は変容すること、等を明らかにした。従って、本研究の最大の研究成果は、筋電図という一般的な指標に「運動イメージ」というヒト特有の高次の精神機能を反映させ、その機序を解析する手法を開発した点にあり、新たな研究の可能性に一石を投じた。
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