我々の生体防御機構のうち第一次防御ラインには白血球があり、このうち好中球は貧食機能や殺菌機能を有し、病原微生物の侵入を防いでいる。運動負荷時には好中球、単球などが上昇するが、好中球は、侵入してきた病原微生物を捕食し活性酸素で殺菌する一方で、非酸化的にリゾチームやラクトフェリンを分泌し、抗菌作用を発揮する。急性運動負荷後の白血球の顕著な増加は、これらの液性因子も上昇し、生体防御機能を高めている可能性がある。 本研究では、生体防御機構のうち第一次防御ラインにある細胞性および液性免疫因子が運動負荷によってどのようなネットワークを構築し、運動後の免疫機能に影響を及ぼしているかを検討した。 研究Iでは、身体鍛練と非特異的免疫因子の関連について検討し、水泳群の血清コルチオール濃度が非鍛練群に比べ有意差(p<0.05)に高値を示したが、白血球数、リンパ球数、好中球数、単球数などには差は認められなかった。非特異的免疫機能は身体鍛練の影響を受けにくいものと考えられた。 研究IIは、400m水泳時の非特異的免疫因子の関連について検討し、水泳運動後に血清リゾチーム濃度の有意な減少、血清コルチゾール濃度、白血球数、リンパ球数および単球数の有意な上昇を認めた。また、血清IL-6濃度と単球数との間にr=0.373(p<0.05)有意な関係を認めた。以上の結果から、運動直後には、血清リゾチーム濃度からみた好中球の抗菌機能は抑制されたが、リンパ球や単球による細胞性免疫の亢進とIL-6の作用による急性相反応の亢進が示唆された。 研究IIIでは、リゾチームおよびラクトフェリンを指標に運動時の口腔局所免疫反応を検討した。運動強度の増加に伴い、唾液リゾチーム濃度およびラクトフェリン濃度は比例的に増加した。50%VO2max.で20分間の運動では、唾液分泌量に変化なく、また、唾液ラクトフェリン濃度に有意な上昇が認められた。以上の結果から、中等度の強度の運動では口腔局所免疫機能の亢進が示唆され、いわゆる弱毒性病原菌に対する抗菌力の上昇する可能性が示唆された。
|