研究概要 |
筋疲労による大脳皮質運動野の興奮性の変化に対する機序並びに定量化を試みるために,本年度では,疲労困憊に至る最大下筋収縮前,中及び後に磁気刺激を用いて運動誘発電位(MEP)を測定し,MEPが最大下筋収縮前,中,後でどのような変化を示すか,また,筋疲労に伴う小筋群と大筋群でのMEP応答も検討した. Grip筋収縮運動で50%MVCの最大下筋力発揮を行わせ,疲労に至るまで持続運動を行わせた.そして筋収縮前,中および後に小筋群であるFDI筋及び大筋群である尺側手根屈筋(FCU)のMEPを測定した,磁気刺激強度は,筋収縮前と後では同じとし,その強度は各被験者でFDI筋でMEPの電位で約2mV,FCUでは約1mVを誘発できるものである.筋収縮中の被験者への刺激強度はわずかな筋収縮によって生じた閾値強度を用い,刺激間隔は4秒ごととした. その結果,最大下筋収縮前後のMEPはFDI筋で2.59mV(100%)から0.68mV(26.3%)へと低下し,FCU筋では0.68mV(100%)から0.031mV(14.6%)まで低下し,筋疲労はMEPを低下させた.また,筋によって興奮性の変化率が異なることが示された.筋収縮中のGrip strength及びMEPについては,疲労困懲に至った時間は,3分から4分の範囲にあり,20秒ごとのGrip strength及び二つの筋群のMEPの平均値を100%として疲労直前までの低下率をみると,Grip strengthは3分まで約60%まで徐々に低下し,残り約30秒ほどで50%まで急な低下を示した.FDI筋のMEPは3分までに29%まで徐々に低下したが,その後42から60%まで増加した,しかし,FCU筋でのMEPはFDI筋ほど低下することなく72%に留まり,その後も大きな増加は見られなかった.筋収縮中の筋力低下率は小筋群でのMEPの低下率より小さく,大筋群のものより大きかった.これらのことから,筋疲労に伴い,各筋群によって皮質運動野の興奮性が異なる変化様相を示すことが示唆された.又,筋力が50%近くまで低下するとMEPが増加する傾向にあり,筋疲労によって収縮中の皮質運動野の興奮性と筋出力の関係が変わってくることが推察された.
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