転倒は高齢者に多くみられるが、その原因の一つに、「歩行中に手に物を持っていた」ことが指摘されている。高齢者の転倒は、「寝たきり」の原因にもなると報告されていることから、転倒防止の対策をとることが求められる。本研究では、荷物の持ち方の違いが体格指数(BMI)の異なる高齢者の歩行動作に及ぼす影響をバイオメカニクス的分析によって検討し、高齢者における荷物保持歩行中の転倒防止に関する基礎的知見を得ることを目的としている。平成10年度は、体格指数(BMI)を基準に3群(過体重群、正常群、るい痩群)にわけた高齢女性を被験者として、荷物を持たない通常の歩行と、荷物保持歩行中での転倒が多かったと報告されている3種類の持ち方(身体の横に片手で下げる、身体の前に両手で保持する、背負う)による荷物保持歩行の計4試技を実験試技とした行わせた。それらの歩行動作をVTRカメラで撮影し、歩幅や足先の最高挙上点などを分析した結果、統計的な差がみられなかったものの、過体重群では、身体の横に片手で荷物を保持した場合に、通常の歩行に比べ歩幅が小さくなり、足先の最高挙上点も低くなる傾向にあった。このような歩行動作は、高齢者が転倒しやすい歩行動作として指摘されていることから、荷物を身体の横に片手で下げた場合に、過体重群にみられた歩行動作は、転倒の危険性があると推察された。 平成11年度の前半は、上述した研究成果をまとめ、8月にカルガリー(カナダ)で開かれた第17回国際バイオメカニクス学会にて発表し、世界各国の研究者と情報交換を行うとともに、3群にわけた被験者の平均年齢や人数等について、いくつかの貴重なアドバイスを得た。それらをふまえ、平成11年度の後半では、各群の平均年齢が近くなるように配慮しながら、各群の被験者数を増やし、平成10年度と同様の実験を追加して行った。その結果、過体重群が横に荷物を持った場合、歩幅は長くなるものの、スイング期で足先が上がらない、いわゆる転倒の危険性の高い歩行動作を示したことが明らかになった。そのような歩行動作がみられた原因は、歩行時に後ろ脚を強調して強くキックするような動きを行っていたことによるものとみられる。これまでは、痩そうの高齢者の場合、転倒の危険性が高いことから、荷物保持歩行に留意するようにいわれていたが、本研究結果をもとにすると、過体重の高齢者も転倒には十分注意する必要があろう。
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