研究概要 |
本研究は,上腕屈筋群のエクセントリック運動に伴う骨格筋収縮・構造蛋白質の血液中濃度の定量法を確立し,その経時的変化を明らかにすることを目的として2年間にわたって行われた。上腕屈筋群のエクセントリック運動のモデルには改良を加え,運動中の筋力発揮を正確にモニター・記録することができるようになり,損傷を引き起こす条件についても詳細に検討され,Bモード超音波画像を用いて損傷の程度を定量化する方法も確立できた。また,これまで用いてきた筋損傷の間接的指標間の相互関係についても明らかにでき,血漿クレアチンキナーゼ(CK)活性値の運動後のピーク値は筋力の低下度や回復率,筋の腫脹,関節可動域とも高い相関関係を示すが,筋肉痛の程度とは有意な相関関係が認められないことが確認できた。CKのピーク値は血液中の他の酵素活性(LDH:乳酸脱水素酵素,AST:グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ)やミオグロビンのピーク値とも有意な相関関係にあり,MRIやBモード超音波画像で捉えられた損傷度とも有意な高い相関関係を示すことが明らかにできた。そこで,CKやミオグロビン以上に筋損傷をダイレクトに反映すると考えられる骨格筋構造蛋白質(ミオシン軽鎖,トロポニンTおよびI)の血液中濃度を,骨格筋由来のミオシン軽鎖,トロポニンTおよびIのモノクローナル抗体を用い,エンザイムイムノアッセイ(ELISA)によって測定しようと試みた。しかし,抗体の特性のためか,信頼性が高いデータが得られるところまでは,もう一歩の状況である。また同様に,骨格筋のアクチン,ミオシン重鎖,デスミンの抗体も購入し,ELISAによって定量を試みたが,モノクローナル抗体の精度の問題や交差反応の影響などもあり,これらについても信頼性の高いデータが得られるまでには至っていない。骨格筋収縮蛋白質や構造蛋白質の血液中濃度が精度良く定量できない原因には,これらが血液中へ出てくるメカニズムが酵素蛋白質やミオグロビンとは異なる可能性も考えられ,今後も引き続き検討を加えていきたい。 なお,本研究課題に関連して行った研究は論文3編にまとめられ,このうち1編は既に学術雑誌(ActaPhysiologica Scandinavica)に掲載された。他の2編は審査中である。
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