研究概要 |
AT以上の高強度運動(supra-AT運動)を開始すると,肺での酸素摂取(VO2)動態は3分以内に定常状態が出現せず,遅れてゆっくりと漸増する余剰なVO2の成分が観察される(VO2 slow成分と呼ばれる)。その生理的成因は関連領域のトピックスのひとつである。一方,supra-AT運動を間に安静もしくはベースライン運動をおいて2回繰り返すと,1回目のものと比して,2回目の運動時のVO2の立ち上がりのスピードアップとVO2 slow成分の減少がおこるという興味深い事実を,我々も含めたいくつかのグループが報告してきている。そこで,VO2 slow成分の生理的規定要因の解明のために,この繰り返し運動プロトコールが有用な研究戦略と考えて本研究は立案された。本年度は,仮説される成因の中で運動開始時の運動肢への血液循環(血流)を取り上げ,人為的な方法で血流促進ならびに遅延をおこし,その際のVO2動態になんらかの関連する変化が認められるか否かを検討した。運動は脚の自転車エルゴメータ運動で,まずsupra-AT運動の2回の繰り返すプロトコールを行い,2回目の運動でのVO2促進という先行研究の結果を確認した。次に運動開始時の運動肢への血流促進条件は,反応性充血を用いた。具体的には大腿起始部を動脈圧以上のカフで10分間止血し,カフ圧解除後におこる反応性充血時に運動を開始した。一方の血流遅延条件は,顔面冷却による反射性の除脈(ダイビング反射)を用いた。具体的には,運動開始前1分から運動開始後1分までの2分間,0℃で顔面の三叉神経を刺激した。両条件の設定については,大腿動脈の血流を超音波ドップラー法により計測することで確認した。人為的な血流操作を行った両条件下での運動時VO2経時変化は,基本的に繰り返しプロトコールでの1回目のものと差異はなかった。従って,VO2 slow成分の成因として,運動開始時の血流促進は関与していないことがわかった。
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