研究概要 |
AT以上の高強度運動開始時に観察されるVO2 slow成分の生理的規定要因の解明のために,繰り返し運動プロトコールが有用な研究戦略と考え本研究を立案した。高強度運動を,間に安静をはさんで2回繰り返すと,1回目のものと比して,2回目の運動時のVO2の立ち上がりが促進されること,ならびにslow成分の減少がおこることが知られている。この成因を明らかにすることは,VO2 slow成分の生理的規定要因の解明のみならず,「ウオーミングアップ効果」と総称されるものにひとつの生理学的な意味づけを与えることになる。本研究では特に,運動肢へのへの血流動態,すなわち酸素運搬(02ーdelivery)が,その主要な原因となっているか否かを明らかにすることを主要な目的とした。昨年度の研究では,運動肢への反応性充血と顔面冷却刺激(CFS)による潜水反射(徐脈による中心循環低下)を運動開始時に適用することで,血流の促進ならびに遅延条件を設定し,運動開始時のVO2動態を対照条件と比較検討したが,有意な違いは認められず,運動肢への血流動態が直接的には関与していないのではないかと推察された。しかし,自転車こぎ運動では運動肢の動きが激しく,運動肢へ至る大腿動脈の血流を運動中に測定することができず,あくまで促進・遅延を想定した条件設定にすぎなかった。そこで本年度は,運動中も運動肢への血流測定が可能な膝伸展運動に運動様式を変更して,繰り返し高強度運動でのVO2動態と運動肢血流動態の経時的変化の関連性を検討した。その結果,繰り返し高強度運動時に観察される特徴的なVO2動態に対して,運動肢の血流動態の経時変化は有意な関連性を示さなかった。従って,VO2 slow成分の成因として,運動開始時の血流動態は関与していないことが示唆された。そこで現在,筋内要因を次の仮説として取り上げ,繰り返し膝伸展運動中の筋内エナジェティクスを31P-MRSによって観察する実験を行い,結果の解析中である。
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