研究概要 |
本年度は、独自に開発したラット筋力トレーニングモデル(Tamaki T et al, Med Sci Sports Exerc,1992)を用いて、「筋力トレーニングと血流制限の影響」と近赤外光を用いて「筋力トレーニング中の筋内酸素動態」について検討した。上記筋力トレーニングモデルに対し、後肢鼠径部に駆血体を装着して血流制限下でトレーニングを行わせ、各種指標を通常トレーニングの場合と比較検討した。以下に血流制限による影響を列挙する。1)筋力トレーニングを血流制限下で行わせた場合、負荷強度を通常トレーニング時の1/4程度に設定しなければトレーニングが成立しなかった。2)同様のトレーニング後、後肢下腿の皮下出血が顕著に観察された。3)負荷強度が低いため、通常筋力トレーニング時に観られる、物理的な機序による筋損傷はほとんど認められなかった。4)しかし、筋損傷の指標となる運動後の血中CK活性値は通常トレーニング時と同様に上昇しており、加えて安静値への回復が遅延する傾向が示され、物理的機序以外で筋損傷が引き起こされたことを示唆していた。5)運動後の筋組織中の抗酸化酵素(GPx)活性を継時的に定量したところ、特に遅筋線維で構成されているヒラメ筋において顕著な変化が認められた。すなわち、通常トレーニングでは運動直後に上昇し、3時間後にはほぼ安静値へ戻る傾向が示され、筋力トレーニング自体が筋組織内のGPx活性を高める傾向にあることが明らかになった。これに対し、血流制限を加えるとGPx活性は同様に運動直後から上昇し、3時間後まで有意に高値を示し、その後もしばらくの間上昇傾向が続いていた。この傾向は血中CK活性値の変化と類似していることから筋力トレーニングに血流制限が加わることで、筋組織への酸化ストレスが増強され、筋細胞にダメージを与えたものと推察された。その原因として、筋力トレーニング自体が筋肉に対する血流貯留を奨励し、筋組織を運動中に低酸素状態にし、休息時に酸素濃度の高い血液による再還流を受ける状態を作ることが、筋赤外光による酸素動態の測定で明らかになった。加えて血流制限下ではこの傾向がさらに増強され、休息時にも血中酸素濃度が回復せず、長時間にわたる低酸素状態が続いた後、回復に向かうことから、いわゆる虚血一再還流に近い状態が作られることが明らかとなった。これにより血流制限下のトレーニングでは負荷強度が低いにも関わらず、上述の酸化ストレスが筋組織に加わることで筋損傷を引き起こしたものと考えられた。
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