今年度はHDLのLDLに対する酸化変性抑制効果の評価方法を確立するための基礎検討を実施し、preliminaryに運動トレーニングのサンプルについて測定した。HDLのLDLに対する抗酸化性の最も簡易な評価法として、酸化剤添加後の共役ジエン量の変化について検討した。その結果、in vitroにおいてLDL単独あるいはLDL+HDLに硫酸銅を添加した後の共役ジエン量を経時的に観察し、両者を比較することにより、HDLのLDLに対する抗酸化性をある程度評価することができることが明らかとなった。そこでこの系を用いて、継続的な運動がHDLあるいはLDLの質的変化をもたらすか、運動習慣のない中高年女性3名を対象として検討した。運動トレーニングとして有酸素運動を30分、ストレッチ等を30分で合計60分行い、これを週2回以上の頻度で3ヶ月間実施した。その結果、運動トレーニング前後で血清総コレステロール値、トリグリセライド値、HDLコレステロール値に明らかな変化は認められなかった。またLDL中の共役ジエンの生成パターンにはほとんど差が認められなかった。すなわち、今回の運動トレーニングにより、LDLの被酸化性に明らかな変化はなかったものと考えられた。一方、コントロールのLDLに運動トレーニング前後の血液より得られたHDLを添加し、硫酸銅添加後の共役ジエン生成パターンについて比較したところ、3名中2名はトレーニング前後のHDLとも同程度のlag time延長効果を示し、トレーニングによる効果は認められなかった。しかし他の1名はトレーニング後のHDLの方が明らかに強いlag time延長効果を示した。この結果は運動トレーニングによりHDLの抗酸化性が増強される場合があることを示すものと考えられた。
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