研究概要 |
今年度は,動脈硬化の危険因子を保有する対象者について,運動トレーニングが血清およびLDLの抗酸化能にどのような影響をおよぼし,またそれにHDLがどのように関与するかについて,臨床的な検討を中心に行った.46名の冠危険因子を持つ中高年者を対象に,有酸素的な運動トレーニングを週2回,3ヶ月間実施した.その結果,銅イオン添加後の共役ジエン生成のラグタイムでみた抗酸化能は,運動トレーニング後に血清,LDLともに有意に高まった.我々はこの運動による抗酸化能の増強にHDLが関与しているものと考え,まず血清HDL-C値の変化と抗酸化能の変化との関係について検討した.その結果,血清HDL-C値の変化と血清の抗酸化能の変化との間には有意な正相関が認められ,HDLの量的な増加は血清の抗酸化能を高める可能性があることを初めて明らかにした.さらに我々は,HDLが発揮する抗酸化能に大きな影響をおよぼしている因子について検討を進めた.ParaoxonaseはそのほとんどがHDLに存在し,またHDLの抗酸化能を決定する上で特に重要な酵素とされていることから,まずこの酵素活性の測定系を確立した.この系を用いて上記と同じサンプルのparaoxonase活性を測定したところ,有意な変化は認められなかった.しかし,運動トレーニング後にparaoxonase活性が上昇した群ではLDLの酸化感受性が明らかに低下しており,運動トレーニングの酸化LDL生成防止効果にparaoxonaseが一部関与している可能性が示唆された.今後はLCAT活性の影響や,運動により変化するHDLの機能を適切に評価するin vitroの実験系の確立を急ぐと同時に,HDLの抗酸化能を高めるために好ましい運動はどのようなものかを明らかにしていきたい.
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