研究概要 |
1. 研究目的:糖尿病性腎症による血液透析への移行は腎疾患に次いで第2位を占めている。インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)は運動療法の適用と考えられている。運動によってインスリン感受性が亢進し,脂質代謝が改善することは周知のことである。一方,血糖コントロールが悪いと,インスリン抵抗性が高まり,網膜や腎糸球体などの細動脈血管系が硬化することが報告されている。ヒト腎臓の場合,血管障害の進展状況を的確に把握することは難しく,尿中に微量排泄されるアルブミン(MAU)によって推測せざるを得ない。適切な運動療法によって病態が改善すれば,腎血管系への障害も軽減し,MAUは減少するかも知れないが,不適切な場合は腎への負担が増し,運動は逆に増悪因子となる可能性も生じる。本研究では,ヒトの肥満・糖尿病モデルとされるOLETFラットを用い,食事療法と運動療法をそれぞれ単独に施行した場合の糖代謝能および腎機能,腎の組織・形態学的観察を行う。 2. 研究方法:被検動物としてヒトNIDDMモデルOLETFラット24匹(Ex群8匹,Diet群8匹,Cont群8匹)および正常対照安静LETラット8匹(NC群)を用いた。10週齢から実験室で飼育し,21〜30週齢まで尿検体採取装置付き回転ケージ(シナノ製作所)を用い自由運動を課し,回転数(運動量)を記録した。また,飲料および粉末飼料(CE-2;日本クレア)を自由摂取させ,残量を秤量し一日あたり摂食量を求めた。尚,実験期間中は朝6時から夕方6時までの12時間を明期,他を暗期とし,飼育室温は23.0±2.0℃(湿度55〜70%)に維持した。体重,血圧(SoftronBP98)測定および採尿は,10,15,20,23,26,29,30週齢時に行い,糖負荷試験はトレーニング終了後に行った。ブドウ糖1g/kgを胃ゾンデを介して経口投与(OGTT)し,眼静脈から投与前,30,60,120分後に採血しIRIおよびBS濃度を測定した。糖負荷試験終了1週間後にネンブタール麻酔下で放血,屠殺し各臓器重量測定後ホルマリン固定し,病理標本を作製した。ヘパリン採血した検体を用い,血液学的成分(RBC,WBC,PLT,Hct)および生化学的成分(TC,TG,HDL-C,クレアチニン(Cr),尿酸)を測定した。尿成分は,電解質類,アルブミン(uAlb),β_2M,Crおよびカテコールアミン濃度を測定した。 3. 研究結果:飼育経過中の体重は,Ex,Diet群差がなく,31週齢ではそれぞれ平均492,478gであり,Cont群に比較し有意に低値であった。各療法終了時(32週齢)の臓器重量を体重あたりで比較すると,腎重量はCont群に比較し,Ex,Diet群が多かった。心臓はExが有意に重かった。腸管膜,副睾丸周囲および後腹膜脂肪重量はContに比較し,Ex,DietとくにEx群が低値であった。しかし,体重あたり筋重量にはEx,Diet2群間に明かな差異はなかった。32週齢時の血中成分のうち,明かな差異がみられたのはEx群の総コレステロール,中性脂肪濃度が他群に比較し低値であったことである。また,32週齢時に行った糖負荷試験の結果,Cont群は明かな耐糖能異常を示したが,Ex,Diet群は正常であった。以上が今年度までに得られた研究成果である。飼育経過中の尿中アルブミン排泄量やCaの動態および腎糸球体面積,容積および基底膜厚の計測は来年度行う予定である。
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