研究概要 |
目的:一部スポーツ選手においては,血中微量元素濃度の減少や鉄欠乏性貧血のみならず亜鉛欠乏性貧血の存在することが,近年報告されるようになってきた。このような症状を引き起こす主要な要因の一つとしては,発汗により微量元素が消失している可能性が考えられる。そこで本研究では,発汗による微量元素の消失の程度を明らかにするため,運動時の汗中微量元素濃度の季節差について検討した。 方法と考察:健康な成人男性10名(22〜26歳)を被験者とし,運動実験を行った。運動実験は心拍数を140拍/分に規定した1時間の自転車エルゴメーター運動を夏季と冬季に実施した。汗は非利き腕に取り付けたアームバッグにより採集した。 結果と考察:発汗により微量元素が損失することが認められた。しかし,すべての元素で夏季よりも冬季で高い傾向にあり,CuとMnにおいては有意(p<0.05)に高値を示した。一方,汗による微量元素の消失量については,いずれの元素濃度も夏季よりも冬季で高い傾向にあるにもかかわらず,夏季と冬季の間に明らかな差異が認められなかった。これは,夏季の発汗量が冬季に比べて約1.7倍高値を示したことによる。多量に発汗するスポーツ選手は,特に冬季の多量の発汗時には著しい微量元素の消失が予測される。したがって,スポーツ選手の微量元素欠乏症は発汗による微量元素の消失が誘因となると考えられる。
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