ヒトの随意運動の発達学研究(motor development)は、階層的動作の分類から始められてきたが、最近ようやく脊髄はもちろん脳の階層的発達のプロセスが明らかにされつつある。古井と関らは、corticospinal制御システムの発達の解明を目的として、反応時間法を用いて中枢性の運動出力機能を検討した(体育学研究、31:1-11、1986)。また、室らは子供における反動動作の効果的活用に注目し、筋活動パターンからその運動制御機構を解析した(日本バイオメカニクス学会大会論文集、1992)。 このように、運動の発達が成人のパターンに至るまでには、何段階かの中枢神経系の階層的構築の発達(変容)が必要である。熟達した運動の階層的制御システムは、運動領野、感覚領野などの中枢が主役(メインプログラム)であるが、補助的役割をもつ脊髄系(サブプログラム)から成るシステムも重要な働きをしている。その脊髄系のサブシステムと上位中枢のメインシステムの機能的発達を児童期(小学生1〜3年生)について検討し、成人との違いを明らかにすることで、脊髄回路の階層的構築の発達段階を予測することは重要な課題である。 本研究は、中枢のメインプログラムの発達過程を明かにするために、児童(小学生1〜3年生)及び成人健常者を対象に、肘関節伸展運動中にその運動の主動筋(上腕三頭筋)または拮抗筋(上腕二頭筋)に外乱刺激として振動刺激を与え、その時の運動知覚の歪みを測定した。同時に筋電図を導出し、詳細な解析を行った。その結果、肘関節伸展運動中にその運動の拮抗筋(上腕二頭筋)に振動刺激を与えた時、児童の運動が成人と比較して顕著な運動知覚の歪みが認められ、児童期における中枢のメインプログラムの未発達さが明かとなった。
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