研究概要 |
慢性低圧低酸素暴露直後において,運動時の肺動脈圧は,肺血管の肥厚および右心室壁肥厚により上昇し,肺循環抵抗の増大が確認された.肺循環抵抗の増大は,ずり応力の増大によって肺血管の内皮.細胞由来弛緩因子である一酸化窒素の放出を促進することがわかった.このため,高地トレーニングにおける長期高地滞在は,肺循環抵抗を増大させるため,運動能力の向上を抑制する可能性が考えられた.また,肺血管反応は慢性低圧低酸素暴露後の脱順化期間において顕著に変化し,これは高所トレーニング後に競技会にのぞむ際,肺の機能的回復と形態的回復を考慮しその時期を選択する必要が生じると思われる.持久的運動トレーニングは低酸素性肺血管収縮を抑制し,その抑制が一酸化窒素合成酵素阻害剤によって完全に解除されることが明らかになった.寒冷に暴露されると,体血管および肺血管はadrenergic-receptorに対する反応性が脱感作を生じ,この脱感作は内皮細胞除去により解除された.つまり,寒冷順化は体血管および肺血管に対して血管拡張に働き,血液容量を増加させる.運動トレーニングは肺動脈の内皮細胞に依存する血管拡張を増加させることがわかった.高地トレーニングは,肺循環抵抗を増大させる一方,肺血管内皮細胞細胞の一酸化窒素放出を促進させ,肺血管調節を変化させる.高所登山や運動中,肺血管の血液容量を増加させ,肺拡散やガス交換の効率を改善する可能性が考えられた.
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