本年度は、日本における具体的な研究対象地域として選定した沖縄県について、離島部を中心に沖縄本島北部から宮古、八重山地域にいたる広域的な現地調査を行い、1990年代における沖縄県離島部農村での資源利用変化と社会変動について、概要の把握につとめた。復帰後1990年代初頭まで全般的な拡大基調にあった沖縄県の農業は、1990年代半ば以降停滞状況にあるが、今回の調査の結果、離島部の状況にはいくつかの類型が認められることが明らかになった。その際のポイントになるのが、戦後長期間にわたって沖縄県離島部の農業の主作物となってきたサトウキビ作の動向である。沖縄本島およびその周辺の離島では、サトウキビ作の衰退が著しく、それに代わる新しい資源利用体系も確立せず、耕作放棄などの現象が出ている。これに対し宮古地域ではサトウキビ作は依然としてさほど後退しておらず、土地利用体系において重要な位置を占めている。同じ離島部でも八重山地域では、宮古地域ほどサトウキビ作に対する執着はなく、畜産との複合による新しい土地利用体系へと移行しつつある。東南アジアのマレーシアにおいても、ゴムやオイルパーム、ココナツなどを中心とした加工作物の生産は、独立後長い間農村部の農家経済を支え、資源利用体系においても重要な位置を占めてきた。それが近年、都市化・産業化の進展の中で、地域的な差異を伴いながら次第にその重要性を失いつつある。年度末のマラヤ大学の訪問においても、沖縄の事例との類似性を中心に議論が行われた。来年度では、今年度の広域的な調査の結果を基に、数カ所の事例地域を選定し、インテンシブな現地調査を行うと同時に、そこでの知見を踏まえて、マレーシアを初めとする東南アジアの事例のより深い理解を試みていきたい。
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