研究概要 |
本研究は、日本における具体的な研究対象地域として沖縄県を選定している.とくに,復帰後の沖縄離島部の生態-社会システムを大きく変えた要因として,政府による農業関連公共投資,とりわけ土地基盤整備事業に注目し,昨年度は,沖縄県全体を対象とした広範なデータ収集とその整理に力を入れた.本年度はそれを受けて,石垣島での詳細な実態調査に力を注いだ.復帰後の石垣島では,農業の体質強化をめざして,国営の大かんがいプロジェクトが展開されている.しかしこの10年,石垣島の現場ではプロジェクトの遂行をめぐって大きな混乱が起きている.本研究では,土地基盤整備事業に関わった多数の農家や行政担当者,技術者などに対して詳細なインタビューを重ねると同時に,議事録等を含む行政や土地改良区の内部資料を精力的に収集し,プロジェクト遂行のプロセスを丹念に追跡した.こうした作業を通じて,プロジェクトの遂行をめぐる現場での混乱の背景にある,問題の構造を明らかにした. 主要なポイントを1つ挙げれば,政策サイドが,現実の複雑な社会的・自然的環境やその下での農家の複雑な行動をほとんど想定しないままに,抽象的な農業近代化論に依拠した政策を推し進めたということがある.さらにいえば,現実の情況を政策の根幹に反映させる政策的枠組みも存在しない.第二次世界大戦後の東南アジアの農業開発を振り返るに,実は,沖縄離島部にみたのと同様の問題が,かなり早い段階から指摘されてきたことがわかる.これまで,日本の農業政策や地域開発政策は,どちらかというと国家的な理念や政策目標の実現に力を注ぎ,現場での実態理解が政策形成に大きな影響力をもつことはなかった.しかし,今後の日本の農業政策や周辺地域の開発政策を再考していく際には,東南アジアの農業政策や地域開発政策が歩んだ,現場での実態重視へという流れから学ぶところが少なくないだろう.
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