研究概要 |
東南アジアは現在,日本が高度経済成長期に経験したような大きな社会変動のうねりの中にある.都市部では居住問題が深刻化し,農村部では耕作放棄,農業離れといった現象が顕在化している.しかしこうした事態に対する社会の認識や政策的対応は,日本とはかなり異なっている.経済発展に伴う国土利用の再編は不可避であるが,社会がどのような対応をみせるかは一様ではない.高度に経済の発展した今日の日本において,農村部や地方といった「周辺地域」の社会をどう考えていくかは,なかなか見通しの見えない問題の1つであるが,本研究では,東南アジアのケースを念頭に置きながら,日本の「周辺地域」の問題の再検討を試みた. 本研究では,具体的な研究対象地域として沖縄県を選び,1972年の日本復帰以降の生態-社会システム変動を追った.とくに焦点を当てたのは,「周辺地域の中の周辺地域」離島部における農業政策の展開と農業の動態である.復帰後約30年を経た今日,沖縄離島農業の現場では,農業政策の推進をめぐり様々な混乱が起きている.本研究では,石垣島と多良間島を主要なフィールドとして徹底したフィールドワークを積み重ねることにより,政策の遂行をめぐる現場での混乱の背後にある問題の構造を明らかにした.主要なポイントを1つ挙げれば,政策サイドが,現実の複雑な社会的・自然的環境やその下での農家の複雑な行動をほとんど想定しないままに,抽象的な農業近代化論に依拠した政策を推し進めたということがある.これまで,日本の農業政策や地域開発政策は,どちらかというと国家的な理念や政策目標の実現に力を注ぎ,現場での実態理解が政策形成に大きな影響力をもつことはなかった.しかし,今後の日本の農業政策や周辺地域の開発政策を再考していく際には,東南アジアの農業政策や地域開発政策が歩んだ,現場での実態重視へという流れから学ぶところが少なくないと考えられる.
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