文安2(1445)年「兵庫北関入船納帳」は、同年に兵庫北関へ入関した船から関料を徴収するための帳簿で、のべ約1950艘毎にa.入船月日、b.船の所属地、c.貨物の物品名とその数量、d.船頭名などのデータが記載されている。本研究の究極的な目的は、求心化されない流通の存在にも留意しながら、このデータを分析することによって、瀬戸内沿岸地域に見られる畿内中心の地域構造を考察することである。 上述の目的に向け、まず本年の交付申請書では次のような研究計画を掲げ、成果を得た。 1. 研究代表者が拠って立つ歴史地理学の観点からは、船籍地や推定される積出港、生産地を実際に訪れての現地調査が不可欠であり、初年度の重点項目とした。主たるフィールドである瀬戸内では備前伊部、安芸瀬戸田を調査したが、一般に中世における湊の出土例が決して多くないので、全国各地にも調査地を広げた。具体的には、北は蝦夷上ノ国・津軽十三湊から南は薩摩坊津に至るまでの10ケ所を調査できた。立地条件では、砂堆・潟との関係が深い日本海に対して、瀬戸内の特徴も追究可能と思われる。 2. bの船籍地毎に集計してみて、各地で活躍したと判明する船の所属地は、積出港とは一致しない。物品種毎の船籍地の分布パターンを攪乱して、積出港を考える際の問題を複雑にしている。本年度はこのような船の所属地に分析の一端をふり向けた。例えば、地元、兵庫の船が運んでいる各地の特産物は、求心化されない流通の帰り荷である可能性を交付申請書でも指摘しておいた。近接する摂津・播磨の船と対比して、昨秋に口頭発表を行い、現時点で成文化を進めているところである。 3. 阿波海部と同様に、備前牛窓ではbの項目に牛窓内の小地名が注記されている。これらの小地名について研究する必要性も交付申請書で指摘した。牛窓の船も各地の特産物を運搬しており、上記2とも関連する。牛窓の船による流通を今後分析したいと考えている。
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