本年度は、現代中国の集市貿易に関する資料の収集とそのデータベース化を行った。国立国会図書館、東洋文庫、中国研究所、東大東洋文化研究所、京都大学文学研究科、京大人文科学研究所、神戸市外国語大学、東北大学理学研究科など国内で中国関係の図書・資料を豊富に所蔵している図書館・研究機関で、中国の清代・民国代の地方志と新修地方志叢書として1980年代より新たに編纂が進行している地方志に掲載される集市に関する記事を収集した。また中華民国や日本軍が作成した大縮尺の地形図の収集にも努めた。そして中国南部の広西壮族自治区と広東省の主要な市場(墟市)を掲載した『広西墟鎮手冊』と『広東墟集』をもとにアルバイトに依頼して集市のデータベースを作成した。データベースには集市毎の名称、所在地、起源、規模、設備、集期、商人数、参加者数、民族、主要言語、主要商品、交通条件等の属性を入力した。それと『全国主要集市名冊』『中国集市大観』等や清代・民国代の資料を用いて、時期別の集市分布図や小城鎮分布図など収集資料の地図化も行い、集市貿易の実態と変容について空間的また時間的に比較分析した。 この結果、経済の改革開放政策が本格化した1980年代後半でも、中国の広い農村地域ではなお集市貿易は定期市として開催されることが明らかとなった。広西や広東では、集市が清代・民国代の立地や分布あるいは集期を踏襲している傾向が大都市から離れた地方で強くみられた。しかし多くの集市は規模のうえで市場集落から小城鎮に発展し、定期市の開催だけでなく常設店舗や郷鎮工業、様々な公共施設も立地して、農村の近代化を進める経済的・社会的中心地となっている。都市近郊では常設市化している事例が増えるが、江蘇・浙江とは異なり多くはなお定期的に開催されることが明らかにされた。次年度はさらに長江中下流地域での資料を収集して、マクロな地域間の比較研究を進めていく。
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