研究概要 |
地域住民により維持運営されていた共同風呂(温泉利用は除く)の全国分布を知ることが本研究の出発点であり、研究初年度の本年は全市町村(北海道・沖縄県を除く)への悉皆調査を郵送によるアンケート方式により実施した。発送数2,967通、回答数1,912通、回収率64.4%であった。これにより,共同風呂の全国分布図を作成、市町村単位ではあるがこれまで忘れられていた共同風呂の分布、形態や組織、運営、現存状況、地域社会との関係などの概略を知り得た。詳細な分析はまだ残されているが、その大略は次の通りである。(1)粗密はあるが青森県から鹿児島県まで全国的に分布が認められる。(2)地域的には北九州への集中が著しく、鳥取中部、静岡西部から愛知東部、石川西部と富山中部、長野中・南部、新潟中部なども比較的多い。関東・東北、近畿、中四国、南九州は密度が低い。(3)地方別にも分布密度の高い地域と低い地域との落差が大きい。その要因については次年度以降の研究課題である。(4)これらの自然的・歴史的共通性は必ずしも認められないにもかかわらず、その存続時期や運営形態、地域社会と関係などの類似性が高い。その意味で、共同風呂が近代日本の生活文化の一端を示していることを確認できた。 上記アンケートを踏まえ、分布密度の高い北九州の佐賀県北茂安町とその周辺での実地調査を実施、主に聞き取りにより共同風呂が集落を単位に成立し、地域社会形成の核となりながらもその残象をみせない事例の報告を行った。一方、韓国との比較のための予備調査を行い、韓国清州市近郊でセマウル運動に伴う共同風呂の存在を確認した。 本年度はアンケートの実施に重点を置いたため、その全容の把握には問題が残っている。研究2年目になる次年度は事例の集積に研究の力点を置きたいと考える。
|