地域住民による維持運営された共同風呂(温泉利用は除く)の研究で平成11年度の課題としたのは、(1)北海道と沖縄における分布状況の把握、(2)市町村史(誌)などの資料収集、(3)聞き取り等による実地調査、(4)近隣諸国との比較研究への着手の4点である。このうち(1)は平成10年度の全国市町村悉皆調査において残されていたもので、両道県の全市町村へ郵送により調査用紙を配布、共同風呂の全国調査を完了した。その結果、北海道には比較的多くの共同風呂の存在を確認したが、他地域のそれとは組織や運営上の相違があって開拓史との関係から検討する必要性が生じた。(2)については長野・石川両県の県立図書館等の収蔵資料を閲覧、共同風呂の記録が少ないことを改めて確認した。(3)に関しては、長野県諏訪、石川県加賀及び能登、新潟県中越の4地域において聞き取り調査を実施し、調査用紙では判明しない具体的事例を収集した。これにより、地域社会との関係に東海地方や北九州地方との類似性を知り得たので、共同風呂を日本全域に広げて生活文化として位置づけ得る可能性が高まった。(4)では韓国清州・全州両市において沐浴湯利用調査を行い、近隣住民のほか遠隔地からの利用があること、沐浴湯の利用が日本でいうハレの行為であることを見いだした。もっとも共同風呂とセマウル運動との関係については今後に残された。 これらを通していえる本年度の研究実績としては、共同風呂の全国分布を明らかにしたこと、その事例が集積されたこと、比較研究へ第一歩を踏み出したことである。とはいえ、地域社会との関係において、共通性とともに存在する異質性や地域差についてはより多くの事例を集積せざるを得ず、これを次年度の課題としつつ研究のまとめを行いたいと考えている。
|