共同風呂とは、地域住民が共同の浴場を設け、水汲みや湯沸かしを交代で行って、限られた仲間が無料で日常的に入浴する風呂をいう。したがって、温泉地の共同浴場や経営者のいる銭湯とは異なっている。 1 市町村悉皆アンケートにより、共同風呂がほぼ全国の農村部に分布し、限られた地域の事象ではないことが明らかになった。しかし、分布には粗密があって、概して西日本に多く、とくに九州北部・西四国・山陰・北陸・東海・長野の各地域が密集地域である。 2 共同風呂の成立は明治末期から昭和前期が多いが戦後のものもあり、九州北部では比較的早くに出来たのに対し、長野では遅いなどの地域差がある。一方、消滅は大半が昭和40年代である。 3 共同風呂の施設には大小があるが、住民の自主的な運営、当番による燃料の提供と日替わりの管理、地域生活の核としての風呂小屋、社会的区別をしない人間関係などは全国的に共通している。ただし、北海道と沖縄は、機能は同じだが運営方式が違い、本土の生活文化や衛生意識の浸透としてとらえることができる。 4 韓国でも、1970年代のセマウル運動において共同風呂が造られたことを確認した。永続はしなかったが、その形態や地域社会における機能は日本と類似し、生活文化の伝播の可能性をうかがわせる。 5 共同風呂は相互扶助を目的に維持され、対等な地域社会を形成する契機の一つとなったが、消滅とともに存在自体さえ忘れ去られることが多い。それはあまりにも日常的で、私的な行為の共同化のためであろう。しかし、生活文化から地域社会に接近するにあたり、入浴に際しての助け合いはもらい風呂であったという従来の通念を改めるとともに、共同風呂が近代の地域(生活空間)の形成に寄与したことを評価する必要がある。
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