研究概要 |
1)菌核の化学組成分析 新潟県妙高山および長野県根子岳土壌から採取した菌核の基質にはアルミニウムが濃縮されていることが明らかとなったため、本年度は比較試料としてドイツ・ベルリン北で採取された菌核試料の表面構造の観察(SEM)と元素分析(EPMA)を同様に行った。その結果、ドイツ菌核も同じ構造を持ち、Braunerde soilの菌核でアルミニウムの濃縮がわずかながら認められた。また、土壌の理化学特性の比較を行い、さらに27AI-NMR を用いて菌核アルミニウムの状態解析を行った。これにより土壌生態系におけるアルミニウムの生物代謝機能を考える上で重要な知見を得た。 2)Pg吸収強度とイネ科タケ亜科植生との関係について これまでに、Pg 吸収強度がイネ科タケ亜科植生(ササ属)の生産密度と強い正の相関が見られることを明らかにしてきたが(渡邊ほか,1993)、この関係はまだ生態学的に解釈されていなかった。そこで、富士竹類植物園(静岡県三島)で栽培されている日本の代表的なタケ類の土壌を採取し、腐植酸Pg吸収強度を測定した。その結果、Pg吸収強度は、イネ科タケ亜科の特定属と関係するのではなく、土壌phに支配されることが明らかとなった。すなわち、肥料等の投入により擬似的に溶脱作用が抑えられている環境下ではPg吸収は小さく、逆に活性アルミニウムが相対的に増加する低 ph条件下でPg生成が促進される仕組みが考えられる。 3)Pgの古土壌系列における年代分布と生成環境 約 10 万年の時系列を包含する南九州テフラ土壌累積断面と約 30 万年を包含するドイツ南部レス土壌累積断面を対象に、腐植酸Pg強度の年代分布を調べた。また、鉄化合物の存在形態および蛍光X線元素分析等にもとづいて、Pg生成当時の生成環境について考察した。その結果、2つの断面には共通性がみられ、降水量と蒸発量(気温)に支配される過去の溶脱作用の相対的強度がPg吸収強度という属性として古土壌に保存されているという結論に到達した。この知見は、Watanabe et al.,(1998)の中央ポーランドのレス古土壌系列の結果と整合する。以上の成果は、これまでに明らかになっていなかった環境情報としてのPgの解釈に大きな前進をもたらした。
|