研究概要 |
南九州の海岸低地,特に姶良カルデラ縁を構成する鹿児島湾湾奥の北西岸の平野において,完新世海進最盛期の海成堆積物・旧汀線の認定と詳しい高度測定を行った.これに基づいて本地域の完新世の地殻変動様式について検討する.鹿児島湾奥北西岸において完新世地殻変動の基準となる旧海水準・旧汀線は,1)別府川中流の河川改修工事に伴って出現した多数の露頭,2)思川流域で行われた試錐の試料解析,3)海岸平野での浜堤なとの海浜地形などから認定できる.本地域には多くの露頭において貝化石を含む内湾性海成堆積物が認められ,さらにこれを米丸ベースサージ堆積物が厚く覆う.米丸ベースサージ堆積物の年代は,この中に含まれる木片のC-14年代測定から7,200年前で,下位の海成層の貝化石のC-14年代やこれまで間接的に求められた年代と矛盾しない.貝化石の年代は7,400年前から7,500年前を示す.貝化石のC-14年代測定や米丸テフラとの層位関係から海進最盛期の年代は7,000-7,500年前である.内陸の蒲生におけるこの時期の海面高度は海抜6-8mにある.南側の思川の内陸の谷底低地で行った試錐の珪藻分析結果からも,これとほぼ同じ高度である.一方,姶良カルデラの中心に近い海岸側では,その高度は海抜12mとなる.また,現在の海岸近くでの3,500〜4,000年前の汀線高度は海抜約9mである.姶良カルデラから離れた周辺地域の完新世旧海面は,東シナ海沿岸の海岸低地の試錐結果からは海抜1m以下,東方の太平洋岸の肝属平野では3m以下で,このような高さの完新世の高海面は認められない.このように完新世において姶良カルデラの中心方向に傾動隆起するような地殻変動が生じており,それは姶良カルデラ周辺に特に顕著なことから,このカルデラの火山活動が関わったものであることが示唆される.
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