研究概要 |
南九州の海岸段丘のうち,特に姶良カルデラ縁を構成する鹿児島湾湾奥周辺の更新世の海成・河成段丘の識別と編年を行った.これに基づいて姶良カルデラ周辺地域の更新世の地殻変動様式を明らかにし,前年度求めた完新世の地殻変動様式と比較検討する.本地域には,姶良層,吉田貝層,五反田層,城山層,竜尾層と呼ばれる更新世の段丘堆積物が分布する.このうち,海成・非海成が明解でない姶良層・五反田層について,数カ所の地点で堆積物の珪藻分析を行った結果,それらは河成または湖成堆積物であることが判明した.また鹿児島市域に分布する竜尾層は,特異な層相をもつ火砕流からなる堆積物を主体とする.加久藤盆地でみられる入戸火砕流の湖底堆積物との層相の比較検討と,その鉱物・火山ガラスの岩石記載的・化学的分析から,この火砕流は海食台からなる浅海底に突入した阿多火砕流であることが明らかとなった.阿多火砕流の最近の年代観からみて,この水中阿多火砕流で構成される海成段丘は酸素同位体ステージ5cに対比される.水中堆積部の頂面高度は姶良カルデラ縁の琉球人松の露頭では海抜30m以上に達っしている.内陸の河頭ではより古い中期更新世中頃の海成層の高さは海抜50mで,内陸の隆起量大きくない.更に,東シナ海沿岸の八房川流域では阿多火砕流に覆われる海成層の頂面高度は海抜9mとなる.このように更新世の海成堆積物の高さの検討からも,姶良カルデラを中心とした曲隆が認められ,前回報告した完新世の曲隆は更新世から続いていることが明らかとなった.
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