研究概要 |
1998年9月3日16時58分に,岩手山の南西約10kmを震源とするM6.1の地震が発生した.この地震に伴って,岩手県雫石町篠崎付近の地表に,既存の逆断層タイプの活断層:西根断層群(活断層研究会,1991)に沿って明瞭な地表地震断層が長さ800mにわたって現れた.西根断層群は西傾斜の逆断層と地形から推定されていたが,地表地震断層も西傾斜の低角な逆断層で,東へ湾曲した平面分布を示す.地表地震断層はほぼ南北の一般走向を持ち西側隆起で,西根断層群の変位様式と調和的である.地表地震断層による西側隆起成分は,断層線中央部の斉内川付近で最大の約40cmを示すが,南北両端に向かうにつれ減少し25〜30cmとなり,逆断層変位では中央部の変位量が最大になる場合が多いとされる一般傾向に合致する.地表地震断層の断面形は,断層線西側が20〜30cm膨らみ背後の山地側へ向かって逆傾斜し,逆断層上盤側での垂直変位の特徴をよく示す.この結果,地表地震断層は,第四紀後期の活断層変位の累積である断層変位地形の形態的な特徴と同様の特徴を持つことが明らかになった. 1945年三河地震で現れた深溝地震断層・横須賀地震断層は,南西側が1〜2m隆起し明瞭なものであった.しかし今回の研究で,大縮尺空中写真を使用して高精度断層変位地形判読を行っても,従来の知見を越えるような完新世の新期の断層変位を発見することはできなかった.1998年12月に電力中央研究所が実施した横須賀地震断層のトレンチ調査で,南傾斜の明瞭な逆断層を観察する機会を得た.横須賀地震断層は地表付近の第四系内では20〜30度の低角であるが,地表下数メートルでは先第三系内での70度前後の高角逆断層になる.これは横須賀地震断層の第四紀以降の累積変位量が小さいことを示し,そのために断層変位地形の表現が不明瞭になるものと解釈される.
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