色素の光退色について「物質量である色素の変化」と「機能量である色の変化」とを対応させ、耐光堅牢度を色素の光化学反応から理論的に意味づけることを最終目的とする。その第一段階として、耐光堅牢度試験で標準布に使われている青(Acid Blue 83)の水溶液と染色布について、その光退色生成物が色を有しない場合(脱色系)、光退色生成物が黄色い場合(変色系)、暗色化をともなう場合(実際系)を対象に、色素量の変化によって発生する色差を機器測定と視感判定により解析し、色の違いを見分けられる色差の限界;閾値を求め、色素量との関係を検討した。 光退色が同一色相内で脱色によって進行する場合、色差の閾値は青と黄でほぼ等しく、L^*a^*b^*表色系で2〜3であった。この色差を発生させるために必要な色素量は、青の溶液や染色布では、濃色が淡色の10倍、黄の溶液や染色布では、濃色が淡色の100倍であった。色を識別する閾値は青あるいは黄で等しいが、その色差に対応する色素量は黄が青の10倍多く、色差発生に必要な色素量は色によって異なることがわかった。また、Acid Blue 83による染色布は露光によって脱色し、退色の閾値は2であることを確認した。 光退色が色相の変化をともなって進行する場合、色差の閾値は脱色系よりも大きく、黄色生成物が生じる変色系では6、暗色化をともなう実際系では9〜10であった。この色差に対応する色素量も脱色系の1.5〜2倍と多く必要であった。 今後は、脱色系と変色系における色差の閾値の違いをさらに精査するとともに、染色膜の実験から色差発生係数と量子収率を求め、染色布の耐光堅牢度と色素の光化学反応性との関係を検証する。
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