本研究は皮膚と素材間で生じる水分及び熱の移動がどの程度肌触りに影響をあたえるのかをシュミレーション実験を主に行った結果、以下のような知見を得た。 (1)定常状態における試料の熱・水分移動特性:繊維形態や加工の異なる新しいランジェリー素材について、熱・水分移動測定装置を用いて、試料を通しての顕熱移動量Q_dと水分移動も含めた熱移動量Q_w、さらに重ね着を想定した状態の評価を行った。その結果、試料下に5mm以下の空気層が存在する場合は、顕熱移動量におよぼす繊維構造や加工の差は小さい。一方水蒸気の移動をともなう熱移動には、繊維の吸湿性の差が試料間の差として熱損失量(Q_w)にあらわれ、液相の水を含む試料の熱輸送は、水蒸気の移動を伴う場合の熱移動特性とは必ずしも同一傾向にはならず、これには布の水分移動速度が関係していると考えられる。 (2)ぬれ」「冷え」感覚の主観的評価:一度ぬれると水分を保持して乾きにくい試料の方が、披検者の感受性が高かった。また試料の水温がぬれ感覚に及ぼす影響は50℃よりも20℃の方が顕著にみられた。これは、50℃ではより冷感の影響をうけるためではないかと思われる。 (3)水分率の異なる布の熱・水分移動特性:試料を含水状態から、標準状態の平衡水分率にいたるまで熱損失量を測定した結果、熱損失量には水分率ばかりでなく、試料表面の形状が関与し、特に起毛素材は肌側にあった方が保温性の面ではすぐれている。 (4)模擬皮膚と水分率を変化させた布の摩擦特性:起毛およびパイル構造の表面をもつ試料は、糸表面が完全にぬれてしまうと水分率にかかわらず、ほぼ一定の摩擦係数を示し、その値は乾燥した状態ならびに標準状態と比べて小さい。布の水分率が高くなり模擬皮膚との間で液相の水による付着が生じると、摩擦係数の変動にあらわれる。これらのデータは布の肌離れ性ともかかわっている。 (5)静電気と肌触り:布の摩擦によって生じる帯電圧を測定し、それを有効に逃がすための導電性縫い糸の効果について検討をおこなった。その結果、導電性縫い糸を効果的に用いることで、静電気を除去することが可能であることがわかった。
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