本研究は、過疎・高齢化の進む山村の住生活と住文化の変容について、九州山地と紀伊山地との比較を通して検討するものである。初年度である本年度は、各地域の行政資料・文化史料の収集と各種の聞き取りを行い、現状把握のための基礎資料を得るとともに、調査対象地の選定に向けての予備調査を行った。それを基に検討した結果、過疎化・高齢化の進行状況及びそれに伴う社会経済的影響や居住環境・住生活・住文化上の問題は、各集落において非常に差異が大きく、集落単位で問題を検討していくことの重要性が認識された。よって、九州山地及び紀伊山地の両地域から対象となる町村を選定し、まず、三重県紀和町(高齢化率45.5%、平成10年)(以下の高齢化率の数値も全て平成10年度)の木津呂地区において集落調査(各戸の聞き取り調査・住まい方調査・住宅実測調査)を実施した。その結果、約20戸の集落において、現在居住者のいる戸数の約半数の空き家があり、非常に空き家率が高い現状が認められた。最後まで居住していた高齢者が亡くなるとそのまま空き家となり、次第に集落としての機能を果たせなくなっていくという、集落存続の危機をも予測させる状況であった。住民の地域への愛着や助け合いの共同性は強く、永住志向も高いが、地域の年中行事等の存続は若い世代がいないために衰退している状況である。住生活・住文化化については、住宅の平面では田の字型と並列型が混在し、水まわり設備や土間等の改造が進んでいる状況が把握された。今後、宮崎県西郷村(高齢化率33.7%)、木城町(23.4%)、北川町(28.9%)、奈良県十津川村(37.2%)、和歌山県北山村(37.2%)における集落調査を実施する計画である。
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