本研究は、九州山地と紀伊山地の過疎山村の比較検討を通して、広域的視点から、急速な過疎化・高齢化の進む山村の高齢者の居住環境と住生活の実態、長年培われてきた各々に特徴的な住文化の変容の現状と地域特性を明らかにし、地域の風土に調和した高齢者の住環境整備と住文化の保全について検討するものである。集落単位の検討が必要と考え、3カ年に渡って、九州山地では宮崎県東臼杵郡西郷村(高齢化率33.7%、平成10年度)の山瀬集落、宮崎県東臼杵郡南郷村(同32.6%)の水清谷集落及び宮崎県児湯郡西米良村(同34.8%)に散在する作小屋(さくごや)の調査、紀伊山地では、三重県南牟婁郡紀和町(同45.5%)の木津呂集落、奈良県吉野郡十津川村(同37.2%)の神山神下集落及び和歌山県東牟婁郡北山村(同37.2%)の小松集落の住まい方・住宅実測調査を実施した。 西郷村の山瀬集落は幾重もの棚田群と築百年を越える伝統的住まいを有する段状集落だが、過疎高齢化により独自の夜神楽の伝統は失われ、断片的に残るのみである。南郷村水清谷集落は比較的安定した集落で、地域の共同性や伝統文化は継承されているが、高齢化が進み、伝統的住まいの変容も大きい。西米良村の作小屋は同村に特徴的な山間の生産のための住まいだが、空き家と廃屋が増えている。紀和町の木津呂集落は約半数が空き家となり、集落の存続さえ難しい。十津川村の神山神下集落は段状集落であり、防風雨板を持つ伝統的住まいも残るが、廃屋が増えている。北山村の小松集落は線上集落で地域特有の防風雨板を持つ伝統的住まいも残るが、過疎高齢化が進み、地域行事や相互扶助も難しく、将来への不安感が強い。いずれの地域も急速な過疎高齢化が進み、空き家率が高く、集落の存続が危ぶまれるとともに、伝統的住まいと住文化にも大きな変化と衰退の傾向が見いだされた。
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