高齢者が自己の持てる能力を維持し自立した生活が送れるようにするために、家事活動は重要な要素であるが、その中でも食生活は最も基本的な要素である。そこでまず、兵庫県における震災後の高齢者の食生活についての現状を調査し、食事作りの負担感に影響する要因や自立のための望ましい台所環境の整備のあり方を検討した。その結果、震災後に新築された住宅の台所は使い勝手の改善は認められたものの、食事の満足度や食事作りの負担感は体調の悪い者や男性に訴え率が多く、食生活の社会的支援とともに台所環境の改善の必要性が示唆された。 次いで、高齢者の日常生活行動の実態を把握する目的で、10名の高齢者について48時間中の活動量の連続記録を行いその特徴を明らかにするとともに、日常の家事作業中の生理反応を測定し設備の改善への提案を行った。その結果、48時間の総活動量を左右する主要因は家事活動、年齢、同居人数などであり、同居人数の減少に伴い活動量が増加する傾向が認められた。また睡眠時間と外出行動との間にも高い関連性(逆相関)が認められた。これらの結果から、長年行って来た家事作業は高齢者の身体機能維持のために有用であり、適切な設備や援助機器の導入により負担の軽減に導かれることが示唆された。さらに、日常よく行われる作業で負担の大きい階段昇降、掃除機操作、布団の上げ下ろし、作業台での移動作業などについて生体負担(心拍数、血圧など)を測定した。その結果、高齢者は若年者に較べて心拍数よりも最高血圧を上昇させて脈圧の増加により作業負担に対応させ、作業後の回復時間も多く必要とするなど高齢者特有の現象が認められ、循環機能の低下が顕著であったことなどから、今後は高齢者の日常生活に即した施設設備環境の改善が示唆された。
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