三カ年にわたった本研究で、(研究1)ヒトの糖尿病では食行動の異常が知られているがラットやマウスではどのような異常があるのか、またその食行動異常はストレス脆弱性と関係があるのか、(研究2)食行動の異常に脳内神経伝達物質の中でどの伝達物質がどの程度関与しているか、(研究3)種々の食物のなかでストレス緩和物質としてコーヒーおよびその主要構成成分は効果があるのか、等の解明を試みた。(研究1)自然発症糖尿病ラット(WBN/Kob)と同マウス(KK/Ta)並びに対照としての健常ラット(Wistar系)とマウス(C57/BL)のそれぞれ雄を使用した。糖尿病では行動量の増加が観察された。ストレス(拘束)負荷後、糖尿病、健常マウス両方で摂食摂水量の減少をみたが、糖尿病マウスで摂食摂水量の日内リズムの乱れが顕著であった。(研究2)この研究ではWBN/Kobラット、ストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病ラットと健常ラット間の脳海馬セロトニン(5-HT)とドーパミン(DA)レベルを微小透析法で測定した。その結果、5-HTレベルはWBNラット、STZラット、健常ラットの順に低く、WBNラットは健常ラットの約半分であり、DAレベルはWBNラットでは健常の約10分の1と低下していた。種々のイオンチャネル阻害剤、透析液組成変化等の実験の結果、この原因としてシナプスでのイオンチャネル異常の可能性が示唆された。(研究3)この研究ではWBN/Kobラットと健常ラットの脳海馬5-HTレベルを微小透析法で測定した。拘束ストレスで5-HTレベルは著しく上昇する。健常ラットでは1回目と2回目拘束による5-HT増加の比(2回目5-HTピーク値/1回目5-HTピーク値)はコーヒー投与、カフェイン投与、クロロゲン酸投与、生食水投与でそれぞれ約37%、34%、130%、85%であり、コーヒー前投与はストレス緩和に奏功し、その作用はカフェインに依ることが判明した。一方、糖尿病ラット(WBN)ではクロロゲン酸投与を除く値はそれぞれ45%、51%、68%でありコーヒーのストレス緩和効果はやや減弱していた。これは前述の糖尿病におけるストレス脆弱性が関係しているのかもしれない。
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