高齢社会を迎えて骨粗鬆症の原因ともなるカルシウム摂取量の不足が問題となっているが、我が国では、古来より小魚を骨ごと食べる調理が行われており、これらはカルシウムの供給源として有効であると考えられる。そこで、伝統的な魚調理におけるカルシウムの挙動について調べることが急務であると考え本研究を行った。骨粗鬆症を予防するために、食品からカルシウムを摂取することを検討し、魚骨中のカルシウムの挙動と骨の物性との関係を明らかにすることを考えた。 我が国で一般的に行われている魚の酢漬処理と加熱処理では、骨を軟化させて食用にしている。これらの処理を施した魚骨について、テクスチャー変化を食味検査と物性測定により把握し、これらの変化の原因と考えれる魚骨中のタンパク質、カルシウムその他の無機成分の変化について検討した。 魚骨を酢酸溶液に浸漬すると、短時間のうちに軟化し、このとき骨からカルシウム、リン、マグネシウムが高率で溶出したが、タンパク質の溶出はみられず、酢浸漬による骨の軟化には無機成分の溶出が関与していることが推論された。漁骨のさまざまな溶液中で加熱すると、いずれの溶液においても加熱時間が長くなるにつれて軟化し、それに伴いタンパク質が溶出した。酢酸溶液中で加熱した骨は、軟化が著しく、タンパク質の溶出が水中加熱の場合よりも多く、かつ、カルシウムが溶出していた。X線回折により骨アパタイトの結晶性を調べると、酢酸溶液に浸漬した生骨では、非晶質を示す部分が出現し、結晶性が変化していることが認められた。さまざまな溶液中で加熱した魚骨では、いずれの溶液においてもハイドロキシアパタイトそのものの回折図に近似し、結晶性が進むことが認められた。これらのことから、魚骨の軟化は、骨を構成しているコラーゲンと骨アパタイトとの構造変化が要因であると考えた。
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