耐久性のある良い和紙を選択し、使用することが、現在の資料を残すためだけではなく、過去の遺産の保存修理のためにも望まれる。和紙の主原料である楮はアルカリ水溶液で煮熟され、繊維化される。アルカリとしては木灰、石灰、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムが使用されている。木灰のようなマイルドなアルカリで処理すると良い紙ができると通常言われているが、この点についての詳細な比較研究はなく、実際にどのように紙の耐久性などの違いをもたらすのか、また、その違いはどのような化学組成の変化に起因しているのかについては依然として不明のままである。ここでは、日本画や版画に使用するドウサを再度取り上げ、煮熟方法の違いがこの様な酸の塗布によってどの様な保存性の違いを示すかについて検討し、保存性の良い和紙についての指針を示すことを目的とした。 高知産の同一品質の楮を試料とし、木灰、石灰、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムで煮熟して製紙した。これらの和紙試料に所定量のドウサ(膠と明礬による滲み止め)を塗布し、強制劣化(80℃、65%RH、4カ月)した。紙の物性として引裂強さ、耐折強さ、引張強さ、色変化の測定を行った。ドウサ引きは、和紙の劣化を促進した。とくに、水酸化ナトリウムで煮熟した和紙は、ドウサ引きによる強度低下が大きかった。この実験からも、強いアルカリで煮熟すると、紙の保存性に悪影響を与えることが確かめられた。
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