大分県玖珠町および宇佐市、福岡県苅田町、岡山県岡山市の各教育委員会の協力を得て、弥生時代から古墳時代の墳墓の発掘調査現場で赤色顔料のサンプリングを行い、採取方法および分析試料の作成についての検討を行った。 玖珠町陣ケ台遺跡では、調査後破壊のため埋葬施設床面全面をブロック毎に採取し、赤色顔料の使い分け、拡散範囲などを明らかにした。苅田町岩屋古墳群は礫床なので、多数の地点からテープによるポイント採取を行い、赤色顔料の使い分けを想定することができた。宇佐市川部高森遺跡は史跡として整備保存するため、遺構に採取痕を残すことは避けなければならないので、少量づつ多数の地点からポイント採取を行った。しかし、従来より問題となっていた粘土枕と赤色顔料の状態については、シリンジによる柱状採取を行い、豊前地域の「石棺内面には朱、枕にはベンガラ」という赤色顔料の特殊な使い方を解明することができた。岡山市宗形神社古墳はすでに破壊され、当初の状態は不明であったが、数ヵ所の試料採取により2体埋葬の可能性が裏附けられた。 以上の調査により、従来、石棺や石室等の埋葬施設に塗布された赤色顔料はメス等で削り取ることが多かったが、メンデイングテープを用いて赤色物を付着させ、顕微鏡観察や蛍光X線分析の試料とする方法が、遺構に傷をつけず少量のサンプルでも充分有効であることがわかった。また、埋葬施設床面のサンプリングはポリエチレンシリンジを用いて柱状試料を得る方法が有効ではあるが、遺構面に大きく穴を残すため検討が必要で、今後の課題であろう。これらの試料はポリエチレンチューブに脱気シールし、観察可能な状態で保管している。
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