研究概要 |
本年度は,19世紀以降現在までの,アメリカ,イギリス,ドイツにおける科学教育と技術教育の接点,ならびに境界(相違点)を中心に分析を行ってきた.具体的には,科学教育と技術教育が歴史的にどのように定義され,学校教育の中でどのように実践されてきたかを解明してきた. その結果,1970年代までは,科学教育と技術教育の定義は明確でなかったが,学校教育において科学と技術は明らかに異なる教科として発展してきたことが指摘された.科学に対応する教科は,言うまでもなく物理,化学,生物,地球科学等であるが,近年までは,これらに加え,地質学,自然地理学,植物学,動物学,生理学等,学問領域と密接に対応した教科が提供されていた.一方技術教育は,インダストリアーツや手工等の教科に見られるように,職業教育の中で実践されていた.したがって,ここでは,費用便益分析,設計,トレードオフなどの技術に固有な概念が取り扱われることなく,「技術とはいかなる学問か」についてはまったく言及されてこなかった. 実はこの点にこそ,現在の科学教育と技術教育のインターフェイスの鍵が存在する.つまり,科学とはいかなる学問であるかを扱うときに,技術に固有な概念が参照されるのである.これは,両者の対比の中から科学の特色を浮き上がらせるアプローチと言ってもよい. 本年度の研究においては,イギリスのロンドン大学Justin Dillon教授による貴重なレビューを受けることができたが,三国間の比較は十分に行われたとは言えない.これは今後に残された課題である.なお,本研究のこれまでの成果は,来年度以降順次論文の形で公表し,批判を受ける予定である.
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