有効なメタ認知的経験は広義の意味でのコミュニケーションによって生じる(Flavell 1981)。 「質問する」という行動は、自己に対する、あるいは他者に対してのコミュニケーション行動である。そのようなコミュニケーションが生じる場を設定し、どのように学習者達のメタ認知的経験が発達するのかを探求することを目的とする。 そこで、工学部の学生達が距離的に離れている文学部の学生達を電子掲示板を介して個別指導をするという協調学習の実践を試みた。そしてコンピュータ・リテラシが皆無である文学部の学生達はコンピュータ・サイエンスの用語を説明するという課題を与えられた。彼らは課題の遂行が困難となり、電子黒板に次々と質問を投稿し始めた。それに対し工学部の学生チュータ達は当初丁寧な説明をしていたが、徐々に文学部の学習者達に対し質問の仕方を批判したり助言をし始めた。これらの相互作用が学習者達の質問を自らの理解の正しさを確認する質問へと変容させた。これらの質問の変容は学習者達のメタ認知的経験が促進したことを示している。 ここで、上述の実践における相互作用がどのようにして学習者達のメタ認知的経験を促進したかを明らかにするために、質問とその応答という相互作用をメタ認知的経験の観点で分析した。その結果として次の2点を提案する。 1. 質問やその応答とメタ認知的経験との関係 学習者達の質問は、かれらが質問という行動をする直前の認知行動を表している。また、チュータ達の応答は、学習者達の認知行動に対するチュータ達のモニタリングの結果を表してる。 2. 相互作用と学習者達のメタ認知的経験の促進との関係 学習者達が、質問の応答として受け取ったチュータ達のモニタリングの結果を意識して認知し、さらに、チュータ達のモニタリングの基準で自らの認知行動のモニタリングを試みたとき、学習者達のモニタリングは促進するであろう。
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