研究概要 |
教師の学力観は、教師の信念(teachers' beliefs)を生み出す根源である。重要な研究課題でありながら、わが国の英語教育学では充分な関心が払われていない。中学校英語教師を対象にしたメディア利用全国調査で、教師年齢とLL教室における文型練習支持率の間に正比例の関係が認められた(伊東,2000)。本研究ではこれを契機とし、学力観の年齢層格差の確認を第一義とし、さらに格差を生み出す要因を検討した。全国150校の中学・高校英語教師から得た275票の有効回答を、クロス集計によって分析した結果、以下の4点が明らかになった。 1)英語教師を学力観によって意味重視型と形式重視型に2分する時、前者は後者を42.5%上回る。その幅は高校よりも中学校、また、高年齢層よりも低年齢層の教師において一層大きい。 2)この傾向は、活動の重要性認識に反映している。「文型を指定せず、伝達目的を持ち、内容や発想を重視したコミュニケーション」を重要な活動として挙げる割合は低年齢層の42.2%が最高で、高年齢層の30.0%が最低である。一方「文型ドリル」は低年齢層の64.2%が最低で、中年齢層は85.1%、高年齢層は84.3%であった。 3)学力観を形成する最大要因として「これまでの指導経験」を選択した割合は53.1%に達する。学力観形成メカニズムの詳細については今後の調査・分析を待たねばならない。 4)授業運営の困難を感じる教師の割合は27.7%で、その原因は生徒にあるとする回答が最多である。また、59.3%の教師は生徒の学力伸長に満足している。しかし、英語教師であることに幸福感を持つ教師はわずか9.6%にとどまる。教師の自己実現を阻む要因の特定が今後の調査に期待される。
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