これまでの調査研究結果発音学習度の指標として音節明瞭度試験が妥当であることがわかった。そこで筑波技術短期大学の学生40名それぞれが日本語100音節を発音した音声をビデオテープに集録した。その音声のみを5人で受聴試験を行ない、それぞれの単音節明瞭度を求めた。またこれまでの調査研究結果から発音学習では母音の学習度の向上が会話音声の認識率改善に大きな役割を果たすので母音の学習を重視していることがわかった。それで本研究では先ず母音の発音学習度を音響パラメータから推定する方法を検討することにした。それで先の単音節明瞭度の試験結果から母音の正聴率および異聴のされ方を調べた。その結果母音の第1ホルマント周波数(F1)および第2ホルマント周波数(F2)をパラメータとする平面上で5母音は5角形をなして分布するが、隣り合う母音に異聴される率が他の母音に異聴される率よりもはるかに大きいことが明確になった。そこで単音節明瞭度試験を行った音声から昨年度構築した音声の音響分析システムによりスペクトル分析を行ってピッチ周波数とホルマント周波数を求めた。得られた各被験者の第1および第2ホルマント周波数データを用いてF1・F2平面上での母音間のユークリッド距離とマハラノビス距離を求め、そしてそれらと母音間の異聴率との関係を調べると相関がかなり強いことがわかった。それでF1・F2平面上で隣り合う母音間のユークリッド距離およびマハラノビス距離の総和と母音の認識率との相関度を検討した。その結果ユークリッド距離を用いた時の相関が0.67、そしてマハラノビス距離を用いた時の相関が0.52であった。これらの検討結果からF1・F2平面上での各母音間の距離により母音の学習度を推定できることがわかった。
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