聴覚に障害を有する者が発音学習をする時発音の学習度を検査し明確な再現性のある数値を提示することが必要であるがそのような発音音声の評価方法は無いと言っても過言ではない。発音学習が初期の場合多く用いられる音声の評価方法に日本語100音節発音明瞭度試験がある。しかしこの方法は多くの人々の多大な労力を必要とし、そして聞き取り試験者によりその結果も変わりうる。そこで本研究で発音音声の特徴量から発音の学習度を推定することを試みた。聴覚障害を有しそして種々発音学習度の異なる筑波技術短期大学の学生40人を被験者とし、日本語100音節発音明瞭度試験を行った。そして音節発音明瞭度と母音発音明瞭度を検討した結果音節発音明瞭度と母音発音明瞭度の間には非常に強い相関があることが確認された。そこで音響特徴量の抽出がより容易である母音の特徴量から母音の発音学習度を推定しそして音節の発音学習度を推定する方法について検討することにした。また先の日本語100音節発音明瞭度試験の正聴および異聴結果を検討した結果、母音の第一ホルマント(F_1)・母音の第二ホルマント(F_2)平面上で隣り合う母音間で異聴が起こることが分かった。これをもとに各被験者の母音F_1およびF_2を検討した結果異聴が起こる時F_1・F_2平面上で隣り合う母音間距離が短くなり、また正聴率が低いほど健聴者と被験者の母音間距離が長くなることが分かった。これらのことによりF_1・F_2平面上で隣り合う母音間の距離の総計と母音発音明瞭度、また健聴者と被験者の母音間距離の総計と母音発音明瞭度の間に相関があるかを統計検定で検討した結果相関が認められた。しかしこれまでの検討では母音の音響分析を行った被験者数は被験者40人のうちの一部16人であるので今後このパラメータの信頼性を高めるにはより多くの被験者の音声を検討することが必要である。そして前述の特徴量のみで発音学習度を非常に精度をよく推定できるとはいい難いのでこれと組み合わせられる他の特徴量の検討も必要と考えられる。
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