今回の研究成果を、当初の計画に即して以下の5点に述べる。 1.研究計画(1)文法能力を診断するために、接続詞を新たに取り上げ、文と文の関係を表現したり理解できるかどうか、より複雑な文章レベルの発達を見た。普通児の結果から、産出課題は4年生で達成できるようになりが、理解課題はより容易で1年生でほぼ可能である事が明らかになった。 2.難聴児では高度や重度の難聴児で接続詞の獲得が特に悪く、理解は出来てもその使いかたに問題が多く見られた。そのため文の論理的展開が出来ず、文脈の誤解も著しかった。 3.教室での言語学習の困難の原因の一つに作業記憶の問題があるので、文の聞き取りや読み書き能力と関連する作業記憶について調査した。聞き取りに関係する作業記憶(リスニングテスト)では重度の難聴児は特に成績が悪く、健聴の幼児レベルにある事がわかった。 4.文の読み書き能力に関係する作業記憶(リーディングスパンテスト)では、難聴児は健聴児童に比較して機械的短期記憶で劣ったが、作業記憶に関しては健聴児と年齢的に差がなかった。また、国語の読解力との関連があまり見られなかった。今後の課題である。 5.研究計画(2)高度難聴児の事例を詳細に検討し、漢字の書き取りや数の計算などのドリル的な課題や問題文の一部が直接の手がかりになるような課題はでは比較的順調に解決できるのに、国語や算数の文章問題(論理関係の理解や抽象的思考を要求する)で特に悪かった。しかし、丁寧な働きかけはそれらの改善する可能性をもっており、このような子どもたちにとって、教室内での学習条件の充実が急務の課題である。
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