韓国の解放直後の歴史教育と1970年代から1980年代の歴史教育の動向について、歴史学(韓国史研究)の研究と関連させながら分析した。その中心的視角は、韓国における民族主義教育と歴史認識の関連であった。1945年以降、韓国では社会科の導入とともに、歴史教育、とくに韓国史教育が重視され、1948年の大韓民国成立以降、国策教科として重要な位置を占めてきた。そうしたなか、孫晋泰らによって提唱された、新民族主義歴史学および歴史教育は、南北分断を克服するための民族統一を提唱したものであった。きわめて実証主義史学や日本の植民地史学を批判しながら、論理を構築していった。しかし、朝鮮戦争後、その論も沈静化していった。歴史学や歴史教育が再び重視されたのは、第三共和国、朴正煕政権下であった。とりわけ1968年の国民教育憲章は、民族中興を訴え、民族史を重視した。1973年、第四次教育課程で、国史は社会科にありながら独立教科として分離され、教科書も国定となった。以後韓国では、国定制が現在まで続くが、一貫して論争の的となってきた。在野史学者といわれる研究者でない人々からも国史教育は注目となった。本研究では、1981年の国史教科書を巡る国会で公聴会と1982年の日本の歴史教科書歪曲問題が、こうした韓国史学界および国史教科書にどのような影響を与えたか分析した。 また本研究では、1970年代後半、姜万吉らによって提唱された「分断時代の歴史学」は、解放直後の新民族主義歴史学の流れとして位置づけた。
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