本研究のまとめは5つの論文で構成している。韓国における歴史学および歴史教育と歴史教科書の変遷を民族主義と関連させながら、韓国解放後の流れを、段階的に時間を追って追究した。韓国の歴史教育に関しては、日本国内ではもとより韓国においても十分な研究成果が無く、筆者も研究を推進するために、多くの韓国内一次資料の発掘と解釈を進めざるを得なかった。韓国の歴史教育と歴史教科書は、韓国史学会や歴史学会という歴史学の研究と不可分の関係にあり、日本とは異なる歴史教育の成立、発展過程を辿ってきた。この日本の歴史教育との違いが、しばしば日本人から「韓国の歴史教育は、反日教育を強く進めている」という誤解を受ける原因でもあった。 その誤解の最大のものは、韓国の歴史学や歴史教育が1945年の植民地からの解放と同時に、自主的な国家建設ができなかったことに関係し、今日まで一貫して南北統合という課題を抱えざるを得なかった。また、今日に至ってもまだ歴史学や歴史教育、歴史認識に1945以前の日本が強要し、抹殺した朝鮮史を新たに復活させる営みが上手くいかないという点があった。韓国では、これを「日帝残滓」とか、「日帝植民史観」と呼ばれるが、徹底的に否定された韓国人の歴史が未だ完全に復興できないという問題がある。5つの論文において、この問題に韓国の歴史学会や歴史教育がどのように向き合おうとしたのかを明らかにした。そして一貫して、その歴史認識には日本という対象が常に存在したのである。
|