知的障害児30名を対象として立ち幅跳びの測定を行った。測定は、何の目標もなく最大の力を発揮するよう言語教示して行う目標なし条件と、そうして得られた跳躍距離の20cm遠くに設定された目標まで跳ぶように求める目標あり条件の2つの条件下で行い、条件間での成績の差異を調べた。その結果、目標あり条件での成績は目標なし条件の場合よりも有意に高く、跳躍距離を伸ばすのに目標をしめすことは一般に有効であることがわかった。また、条件間の差と、生活年齢、知能指数、Garfieldのmotor impersistence testによって測定された行動調製能力との関係を調べたところ、有意に関係していたのは、行動調整能力の成績のみであった。すなわち、行動調整能力が低ければ低いほど、条件間の差は大きかった。しかし、ダウン症児は、彼らの行動調整能力の如何にかかわらず、条件比は小さく、目標の効果はほとんど見られなかった。これは、ダウン症児では、運動の表出に係わる系ではなく、運動能力自体、すなわち運動の実行系に障害を有するためと考えられる。さらに、目標あり条件と目標なし条件でのフォームの違いについてビデオ記録に基づいて検討したところ、目標あり条件では、両腕のより後方への強い振りや膝の深い沈み込み等が見られ、それが成績の上昇と結びついているという印象は明らかであったが、しかし、定量的な表現にまでは至らなかった。この点については、さらに精度の高い記録と計測法の工夫が必要である。
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