知的な障害を有する子どもに運動を行わせるときにもっている能力を十分に発揮させるような課題設定のあり方を検討することを目的として、立ち幅跳びの計測を、何の目標もなく最大の力を発揮するよう言語教示して行う目標なし条件と、そうして得られた跳躍距離の20cm遠くに設定された目標まで跳ぶように求める目標あり条件の2つの条件下で行った。その結果、目標あり条件での成績は目標なし条件の場合よりも有意に高く、跳躍距離を伸ばすのに目標をしめすことは一般に有効であることがわかった。また、条件間の違いと有意に関係していた被験児の属性は、行動調節能力であった。すなわち、行動調整能力が低ければ低いほど、条件間の差は大きかった。しかし、ダウン症児は、彼らの行動調節能力の如何にかかわらず、条件間の違いは小さく、目標の効果はほとんど見られなかった。これは、ダウン症児では、運動の表出に係わる系ではなく、運動能力自体、すなわち運動の実行系に問題を有するためと考えられた。しかし、彼らにあっては、丁寧さを必要とするような運動課題では、他の知的障害児とかわらないことが、水を入れたコップが載ったお盆を3メートル運ぶというお盆運び課題から明らかになった。この課題において、ダウン症児では時間は長くかかり、また、歩数も多かったものの、こぼした水の量は他の知的障害児で差がなかった。このことは、ダウン症児の運動実行系の障害の性質を考える上できわめて示唆に富む事実であり、また、運動課題設定上も十分留意すべきことと考えられた。
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