本研究の目的は、次のようなものであった。 これまでの教師教育における実践的力量形成では、前もって授業を設計することに重点を置いてきた。しかし、実際の授業過程では、教師やそれぞれの子どもが持つ社会・文化的な背景が、教室という社会の中で複雑に相互作用をしている。それは、教師やそれぞれの子どもの認知活動のコミュニケーション過程として立ち現れてくる。このように、教師教育における実践的力量形成では、授業の設計と授業を運営する力量の双方が求められる。本研究では、これまでの教師教育研究では、十分に開拓されていない授業の運営に関する研究を進める。それも、小学校・中学校の国語科授業における教師の〈実践的知識〉に的を絞って、究明することを目的とした。 そこで、1年目の平成10年度は、以下の2点にわたって研究を進めた。 (1) 本研究の基礎となる先行研究を把握した。さらに、授業における教師の〈実践的知識〉の分析方法の仮説を構築した。そのために、授業研究・教師教育・国語科教育・哲学など、幅広く検討した。 (2) (1)の分析仮説に基づいて、実際の国語科授業を調査分析し、授業における教師の〈実践的知識〉の一端を明らかにした。 (2)について、少し詳しく述べよう。本研究は、言語コミュニケーションに媒介された学習過程そのものを事例研究として取り上げ、そこに見られる経験の意味と関係の網の目を解き明かそうとした。つまり、教室で話されるひとまとまりの言語の分析を通じて、教室空間における教師と子どもの認知過程、教室の社会的な文脈形成を考察したのである。そして、そういった教室での出来事を教師はどのように具体に即して構成しようとしているのか。そのような教師の実践的知識を明らかにしようとした。対象としたのは、1998年度鳥取大学附属小学校五年(藤原順子先生担任)の一連の授業である。 なお、ここまでの研究結果については、研究論文として発表する準備中である。
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