本研究では、これまでの教師教育研究では、十分に開拓されていない授業の運営に関する研究を目的として進めた。それも、小学校・中学校・高等学校の国語科授業における教師の<実践的知識>に的を絞って、究明することを目的とした。 1年目の平成10年度は、まずは文献研究によって、授業研究と教師教育研究の今日的到達点と残された課題の把握に努めた。さらに、小学校の国語科授業を継続的に観察し、教室談話(ディスコース)の観点から分析し、授業を担当した教師にもインタビューをした。 2年目の平成11年度は、小学校・高等学校の国語科授業を継続的に観察することによって、授業における教師の<実践的知識>の事例研究を行った。また担当教師および抽出児童に、授業をめぐってインタビューを行った。その結果をナラティヴ(物語的)に記述し直した。 3年目の平成12年度も、中学校・高等学校の国語科授業の継続的に観察した。教師が<実践的知識>として、授業の説明においてアナロジー(未知の事柄に既知の事柄を重ねて推論すること)を多様していることについて、分析した。 3年間にわたる研究の結果、国語科授業で教師は、次のような実践的知識を運用していることを明らかにした。 (1)教師は、他の児童が持っていないような観点から発言する児童の意見を重視して、それを他の児童の意見と関連させながら、授業を方向付けている。(関連性を創り出す) (2)教師は、言語コミュニケーションにおいて、授業の文脈に応じて、意味をずらしたり、意味の幅を広げたり、意味を重ねたりして、教育内容の理解を深めている。(多様性・多声性を創り出す) (3)教師は、アナロジーを使って説明をし、生徒の比喩的な理解を深めている。(アナロジー的理解の深まり) (4)国語科授業に関する様々な理論的知識を今・ここに起こっている授業の出来事の中で、文脈に適合するように変形させて使っている。(文脈への適合) (5)授業の中で、児童生徒、教師ともに複数のアイデンティティを形成している。
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