本研究において明らかにしたのは次の四点である。 第一は、年代史、通史というこれまでの歴史教育や歴史カリキュラムの原理を越えたことである。常識や通念としての歴史カリキュラムは、歴史を古代から現代への時間的経過、また、出来事や事件を中心に構成することを前提にしていた。本研究では、このような常識や通念自体を疑い、それを越えた歴史教育や歴史カリキュラムの原理を見つけた。 第二は、新しい歴史教育の基盤として、歴史のディスコース論を提示したことである。本研究では、歴史が存在としてあるのではなく、構成されたディスコースとして見ることによって、歴史教育の教室実態と合致させることができる。これまでの歴史教育では、歴史そのものの存在を教えるという不可能なことを行おうとしていた。これを批判・反省し、歴史はわれわれが構成したディスコースであるという教室実態に即した考えに転換した。 第三は、現代民主主義社会における社会原理である社会形成を社会科教育とともに、歴史教育の基本原理にしていることである。社会科教育と歴史教育を同一の原理の下に置き、社会科という-教科の中に位置づけることができることを明らかにした。 第四は、歴史教育によって民主主義社会の形成を担う市民を育成する方法原理を示したことである。民主主義社会を形成する原理である批判を社会科、そして歴史教育の方法原理にすることによって、社会形成力を育成する社会科、歴史教育を構築することができるようになる。従来の歴史教育は、無批判的か批判的がのちがいがあるにしても、単に社会(やその歴史)を受容してきた。本研究では、社会(やその歴史)を批判し新たに構築・形成することが、社会科(歴史)教室の役割であることを明確に示した。
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