本研究の目的は、留学生の日本社会、とりわけ大学内での研究生活への適応に関わる諸要因について、留学生自身の要因と、彼らと直接接触する受け入れ側日本人の要因との相互作用を時間的経過の中で検討することにより、留学生の日本文化への適応に寄与する要因を抽出することである。 本年度は、留学生の教育および対人関係に関する背景的価値観の多様性を捉えるため、Hofstede(1992)の文化の次元モデルをもとに質問項目を検討した。また適応尺度に関しては、上原(1992)と神谷(1997)の尺度を参考に、41項目(「学習・研究」8項目、「心身の健康」5項目、「生活」5項目、「経済状況」6項目、「日本の文化」7項目、「対人関係10項目)を設定し、属性21項目、配偶者の適応に関する31項目と合わせて質問紙調査票を作成した。質問紙は日本語・英語版、中国語版、韓国語版、スペイン語版を用意した。12月中旬に北海道大学に在籍する全留学生(595人)に対し、学内便で調査票を送付した。回答者は334人(63カ国)、回収率は56.1%であった。回答者のうち、242人が今後の追跡調査に協力を承諾し、氏名と連絡先電話番号等を記入の上返送してきた。 留学生の価値観については、因子分析の結果、2要囚を抽出し、第1因子を「他者依存-自主性重視」因子、第2因子を「研究優先-個人の生活優先」因子と命名した。それぞれの因子で極端な価値観をもつ回答者の属性を見ると、国や地域、宗教、性によって特徴ある差が見られた。しかし、適応尺度とは明かな差は見られなかった。この成果は日本教育心理学会第41回大会(8月開催)で発表する予定である。今後は、さらにデータを別な視点からの分析を試みるとともに、面接調査によって不適応状況について質的な側面から捉えていきたい。 さらに日本人側の要因については、『外国人留学生受入れと教育・指導に関する意見調査』(関他1996)のデータを再分析し、留学生の価値観との関連を見ている。
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